遺伝と体質 がんはDNA退伝子の病気である。


がんはDNA退伝子の病気である。

通常みられるがんは、私たちの体を構成する数十兆個もある体細胞の中のDNAの変異の結果であって、しかし、いわゆる遺伝病と呼ばれているものとは少しちがう。

そして、今から十年ぐらい前までは、がんは遺伝しないと一般に思われていた。

ところが、意外にがんになりやすい人がいることがわかって来た。

たとえば十万人に五人くらいの割合で、小児におこる眼の網膜芽細胞腫というがんがある。網膜芽細胞腫小児がんの一%くらいにすぎないが、遺伝の関与を理解するのには良い例であった。

網膜芽細胞腫の二―三割が両眼性で、この場合は全例が遺伝性である。家族性、すなわち両親のいずれかに、または患児の胚細胞に突然変異がある。

また片方の限にだけ網膜芽細胞腫が発症した場合でも、その約二割は遺伝性である。

結局、全体として網膜芽細胞腫患者の約四割が遺伝性である。

ナポレオンの家系には胃がんが多いという話は有名である。親等以内に二人以上同じ臓器のがんの罹患者がいる場合、さらに若年でのがん患者が多い場合は、遺伝性因子が関ヶしている可能性が高い。

遺伝的にがんに罹る確率の高い人たちは、がん患者の―割と考えられる。つまり全死亡者の約四分の一ががんによると仮定すると五%ぐらいの人ががんに罹りやすい遺伝的背景をもつグループに属することになる。


遺伝病としてのがん

胚細胞の二つの「い遺伝子のうち、すなわち父親由来と母親由来の遺伝子の中の一つに突然変異を持っている人は、網膜芽細胞腫になる危険率が高い。

網膜芽細胞暉の平均発症年齢は一歳五カ月で、五歳以上になって発症することはまれである。これは網膜芽細胞が胎児期に増殖し、その後は分化して細胞分裂をしないからである。

細胞が増殖する際に、健全なアレルに外囚性または内因性DNA傷害物質によって、またはDNA組み換えによって変異が起こる。

このことが腫瘍発生の原因となる。

変異遺伝子の作用形式としては劣性であるが、病気の遺伝形式としては優性遺伝である。遺伝的に突然変異をもっている人の発病率(浸透率という)も九割ぐらいと高い。

この腫瘍は、本来は悪性度も高くないので、早期に発見し、専門医の治療を受けると完全治癒する率が高い。

しかし、遺伝性の場合には治癒後、成長し成人になってから三割に骨肉睡などの肉腫が発生することが多いので、経過を注意深く観察することを勧める。

また、前に述べたがん抑制遺伝子がある。

この遺伝子に変異のある人は家族性腺腫性ポリポーシスに罹る確率が高い。

これに対して遺伝性大腸がんではあるが、ポリープがたくさんできることのない遺伝性非ポリポーシス人腸がんというのがある。

この場合には先に述べたようにミスマッチ修復酵素に突然変異がある。

これは家系内に骨や軟部組織の肉腫、乳がん、星状膠細胞睡、急性白血病、副腎皮質のがんが多くみられる。

一九九〇年に、この症候群は記遺伝子の変異によるものだということがわかった。

また、乳がんまたは卵巣がんが多い家系ではいる

乳がん家系の中でも男性にも乳がんがみられる場合は遺伝子に変異がみられることが多い。まという細胞増殖サイクルに関わるキナーゼを阻害する蛋白がある。

この遺伝子に変異がある場合は、 メラノーマになる危険率が高いことが報告された。

また前立腺がんに関わる遺伝子は、 一番目の染色体にあることが最近になってわかった。

家族性甲状腺髄様がん多発性内分泌腫瘍では、受容体型のチロンンキナ―ゼをコードしているがん遺伝に変異がある。

さらに遺伝子に突然変異があれば幼児性のウィルムス腫瘍が腎臓にできる。

今や、がんになりやすい家系が存在し、その場合は、すでに胚細胞の段階で発がんに関わるがん遺伝やがん抑制遺伝子が突然変異をもっているということが容易に理解されると思う。

前述したように、遺伝子変異はいろいろながんに関係しているのであるが、遺伝的に遺伝子に変異があるときはなぜか網膜芽細胞腫の発症率が高く、肉腫がこれについでいる。

また、深い関係にあるにもかかわらず、まに遺伝的に変異をもっている人にはメラノーマができやすい。

遺伝因子に欠失をもっている人にできるがんは、その臓器や性質などが、がんの体細胞遺伝子変異からだけでは必ずしも分子生物学的に説明がつかないのが現状である。発がん率の高い遺伝性遺伝子変異としてこれまでに明らかにされているものである。